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黒いひげをもじゃもじゃにはやし、ものすごいかぎ鼻で、羽根をさしたつばの広いぼうしを被り、手にはこしょうピストル、名前を聞けばだれもがふるえあがる大どろぼう。それがこの本の主人公大どろぼうホッツェンプロッツです。
物語は、ホッツェンプロッツがカスパールのおばあさんからコーヒーひきを奪うところから始まります。このコーヒーひきは、カスパールが友達のゼッペルと一緒におばあさんの誕生日にプレゼントしたもので、ハンドルを回すとおばあさんの好きな歌「五月はものみなあらたに」を演奏するというすぐれものです。カスパールとゼッペルは早速大どろぼうからコーヒーひきを取り戻そうと、活動を開始しました。
F・J・トリップによる挿絵のホッツェンプロッツは、ぎょろりとした目のずんぐりした男で、どこかユーモラスな印象を与えます。しかし、こしょうピストルをゼッペルに向けて撃ったり、カスパールを魔法使いに売り飛ばしたり、ろくな食事も与えないでゼッペルをこき使ったりと、情け容赦も無い本当におそろしいどろぼうなのです。
もう一人の悪役、大魔法使いペトロジリウス=ツワッケルマンも、美しい妖精をスズガエルに変えて7年ものあいだ閉じ込めていたり、カスパールに逃げられないように館に魔法をかけたりとホッツェンプロッツに負けないくらいの悪党です。
こんなおそろしい二人の悪党を相手に、カスパールとゼッペルは、知恵と勇気で様々な困難を乗り越え、最後には見事ホッツェンプロッツを捕まえます。
『大どろぼうホッツェンプロッツ』は、既に40年以上も子ども達に愛されつづけている作品です。私自身も子どもの頃に夢中になって読みふけった記憶があります。
これほどまでに子ども達に愛されるのは、この作品全編に流れるなんとも言えないユーモアと楽天的とも言える底抜けの明るさにあるのではないでしょうか?
作者のプロイスラーは、ライヒェンベルグ(現在のチェコ共和国リベレッツ)で教師の両親のもとに生まれました。幼い頃のプロイスラーは、地域の語り手たちや彼の祖母が語る物語をたくさん聞いて育ったようです。とりわけ祖母の存在は大きく、彼自身「(実際には存在しない本だが)祖母の物語は、私の人生で読んだ全ての本の中で最も大切な本だ」と語っています。
まもなく始まった第二次世界大戦で、プロイスラーはドイツ軍に入隊し、21歳の時にソビエト軍の捕虜となって5年間をいくつかのロシアの捕虜収容所で過ごします。その後開放され結婚、26歳の時に家族の協力のもと教員試験に合格して小学校の教師として働き始めます。そして、教員をしながら創作活動を開始するのです。
創作活動をはじめるまでのプロイスラーの人生は、決して順風満帆とはいかなかったようですが、『大どろぼうホッツェンプロッツ』を読む限りでは、プロイスラーの経験した苦労やつらさといった暗さは微塵も感じさせません。
ハラハラドキドキしながらも、楽しく読める一冊です。
蛇足ですが、同じプロイスラーの作品でも、ドイツの伝説をもとにした『クラバート』は、なんとも不気味な雰囲気を持った長編児童文学作品です。比べて読んでみるのもおもしろいかもしれません。
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