HANAIBOOKS  〜HANAI お薦めの子どもの本〜

このページでは、HANAIが教材で使用する本や、ぜひ子ども達に
読んで欲しい本、お父様お母様にもお読みいただきたい本を
紹介していきます。

NO.29

BackNumber

かわいそうなぞう

日本がアメリカと戦争をしているころ、上野動物園では多くの動物がころされました。

つちやゆきお/文
たけべもといちろう/絵
金の星社 
\945
1970年

日本が最後の戦争を終えたのは、今から約60年前のことです。長い歴史の中で考えれば、60年はほんの一瞬でしかありませんが、実際には生まれたばかりの赤ん坊が初老になるほどの時間がたったのです。街も社会もすっかり生まれ変わり、戦後生まれの世代が世の中ほとんどを占めるようになった今、0年前の戦争の記憶をつないでいくことは、至難の業と言えるでしょう。けれども、過ちを二度と繰り返さないためには、私たちはその至難の業に取り組んでいかなければなりません。
今回ご紹介する『かわいそうなぞう』は、実際にあったお話をもとに、戦争のもたらす「悲しさ」を私たちに伝えてくれる絵本です。
日本がアメリカと戦争をしている時、爆弾が落とされて猛獣が逃げ出すことを恐れた人達が、動物園の動物を殺すことに決めました。その頃、上野動物園には三頭のゾウがいました。毒の注射も毒のエサも効かなかったゾウたちを、動物園の人は飢え死にさせることにしました。どんどんやせほそっていくゾウたちはエサをもらいたくて一所懸命芸当を見せました。たまらず飼育係の人がエサをやりましたが、それでもやがてゾウは死んでしまいます。死んだゾウにとりすがって、人々は「せんそうをやめろ」「せんそうをやめてくれぇ」と叫びました。
『かわいそうなぞう』は教科書に掲載された後、絵本として出版されました。そして今も書店の店頭には必ず並べられているロングセラーです。
しかし一方で、東京に爆弾が落とされるのは動物たちが殺されてから一年以上たった後なのに毎日爆弾が落とされていると書いていることや、動物を殺す目的が人々に危機感を持たせるためであったのに、人々を動物から守るための虐殺だったように描いたことから、事実を歪曲して伝え誤った歴史認識を読者に植え付けるとして厳しい批判を受けた本でもあります。
戦争などの社会問題を描く場合には、正確な事実を伝えることは必要最低限の条件です。その条件を満たさない『かわいそうなぞう』は、もっと早く社会から消えるべきだったのではないでしょうか。しかし、実際には70年代後半から80年代にかけて数多く出版された戦争を扱う絵本の中で最も広く知られているのは、この『かわいそうなぞう』なのです。
そして、本当に正直なところ、批判すべき点があることを知った上で、私自身、つちやゆきお氏の淡々と語りかけるような文章とやさしいタッチの武部本一郎氏の絵になんともいえない愛着を感じてやみません。私にとって『かわいそうなぞう』は、戦争がもたらす悲しみをストレートに伝えてくれた作品なのです。
終戦記念日を迎える今月、この絵本を手に取る方も多いことと思います。誤って伝える事実をそれと知った上で、『かわいそうなぞう』が伝える戦争の悲惨さを受け止めて欲しいと思います。


BACK  HOME 

素材提供:「second home